はじめに
新NISAのスタート以降、「S&P 500(米国株)」と「オルカン(全世界株)」のどちらを選ぶべきか、多くの投資家が頭を悩ませています。
私自身の基本的な考えとしては、人口推移などの長期的な視点から見れば、今後も米国株がアウトパフォームする可能性が高いと考えています。しかし、投資の世界は「頭でわかっていても、心がついていかない」ことが多々あります。
今回は、過去33年分のバックテストデータという「客観的な事実」と、情報にあふれた現代を生き抜くための「投資家の心理」の両面から、市場に居続けるための戦略についてお話しします。
1. データが語るS&P 500の強さと、過去から学ぶ意味

まずは、客観的なデータを見てみましょう。上のグラフは、1993年から2025年までの33年間における「S&P 500の超過リターン(S&P 500のリターンからオルカンのリターンを引いた数値)」を表したものです。
※Curvoのドル建てデータを参照
上向きの紺色のグラフが「S&P 500が勝った年」、下向きの緑色のグラフが「オルカンが勝った年」を示しています。
このデータから、大きく3つの重要な事実が読み取れます。
① 長期的な優位性と「1.75%」の差 33年間トータルで見ると、S&P 500の平均年次リターンは12.32%、オルカンは10.57%です。平均して「1.75%」ほどS&P 500が上回っています。勝敗数で見ても、S&P 500の「19勝14敗」と勝ち越しています。 米国の人口推移や経済のダイナミズムを考慮すると、基本的にはS&P 500が強いという事実がデータからも裏付けられています。長期投資において、この1.75%の複利効果は最終的な資産額に大きな差をもたらします。
② 暴落時に機能する「オルカンの防御力」 しかし、グラフの「赤字」に注目してください。 ITバブル崩壊(2000年代前半)やリーマンショック(2009年)といった、震源地がアメリカとなる大規模な経済危機の際には、オルカンがS&P 500を大きくアウトパフォームしています。米国株が深く傷ついている時期に、米国以外の国々(新興国やその他の先進国)が含まれているオルカンが、ポートフォリオ全体の下落をマイルドにしてくれる「クッション」として機能したことがわかります。
③ 2025年の逆転と「最近の記憶」の罠 2010年代以降、グラフは上向きの紺色(S&P 500の勝利)が目立ちます。直近の米国株の快進撃を見てきた私たちは、つい「米国株だけ買っておけば間違いない」という**直近偏向(最近の出来事を過大評価してしまう心理)**に陥りがちです。 しかし、グラフの一番右端、**2025年を見てください。結果は下向きの緑色、つまり「オルカンの勝利」です。**米国株の連勝が永遠に続くわけではなく、市場の主役は定期的に入れ替わるという相場のサイクルを、このグラフは如実に物語っています。
「過去のデータは未来を保証しない」というのは投資の鉄則です。しかし、未来の株価という「未知のもの」に立ち向かう上で、過去のデータ分析は最も有効なコンパスになります。特にNISAのような長期保有を前提とした投資において、この33年分のサイクルを無視するのは非常にもったいないことです。
2. 「米国株一本」の落とし穴は“心理的ダメージ”
データや理論上はS&P 500が最適解に思えますが、ここに**「心理的側面」**という大きな壁が立ちはだかります。
世の中には数え切れないほどの投資商品があります。その中で「米国株のみを買う」と決めた場合、以下のような葛藤が生まれることは想像に難くありません。
- 日本株が大きく上昇している局面での「持っていない」ことへの焦り
- 新興国株、金、不動産、仮想通貨などの好調なニュースを見た時の後ろめたさ
- SNSやニュースで「米国経済の不調」が報じられた時の不安感
どんなに強い信念を持ってS&P 500を買っていたとしても、日々のニュースに心は揺らぎます。例えば、Yahoo!ニュースで一時持ちきりになった「メタプラネット」のような、流行りの個別銘柄の爆発的な値動きを見たとき、インデックス投資家であっても気持ちがぐらついてしまうのは当然のことです。
投資家にとって情報は重要ですが、時としてそれは強烈な「ノイズ」となり、私たちのメンタルにダメージを与えてきます。
3. 私の結論:市場に居続けるための「緩衝材」としてのオルカン
今の情報過多な時代、ノイズを完全に遮断することはほぼ不可能です。それらに揺さぶられながらも、いかに「握力(ホールドする力)」を維持できるかが勝負の分かれ目になります。
そこで行き着いた私の投資スタイルが、**「不本意ながら、両方買う」**という選択です。
基本方針としては米国株推しであり、両方買うのは自分の本来の信念とは少しズレていて不本意な部分もあります。しかし、オルカンを同時に保有しておくことで、これが強烈な**「心理的な緩衝材」**として機能します。
- 安心材料の確保: オルカンを持っていれば、日本株の構成比率は低くても「日本株の上昇局面」に乗れているという安心感が得られます。
- ノイズへの耐性: 米国集中への不安を和らげ、他の資産への目移りを防ぐことができます。
まとめ:自分なりの「握力保持スタイル」を作ろう
投資において最もやってはいけない失敗は、暴落時やノイズに耐えきれず「市場から退場してしまうこと」です。
理論上の最高効率を求めるあまり心が折れてしまっては、元も子もありません。重要なのは、自分が夜ぐっすり眠れる範囲で、情報をうまく受け流し、投資を長く続けられるスタイルを見つけることです。
S&P 500とオルカン、どちらか一つに絞りきれないという方は、「自分の心を守るための分散」として両方を持つという選択肢も、立派な投資戦略の一つではないでしょうか。

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